振動付与装置
技術背景
木製楽器のエイジング装置が知られている。例えば、内部に小さな空隙部を持つファイバー及び粒状素材よりなるセルロースファイバー又は同等の特性を持つ材料により構成される吸放湿性及び遮音・吸音性のある充填断熱材を、透湿性及び内部寸法による定在波が強調されない程度の吸音率を持つ内壁材と防水透湿性と遮音性のある木質系又は同等な特性を持つ外壁材で積層された複合壁により周辺を形成され且つ同複合壁と同等な特性の壁材よりなる開閉可能な扉を持つ箱状の収納空間を構成する構造物において、内部空間を外部より高温に維持する加熱器を備え、木製楽器又は自然系植物・動物の素材を持つ物体や製品等を入れ、同時に、内部空間にて音響装置による音楽を演奏し、音響加振を行う装置が知られている。
現状の問題点
ヴァイオリンの歴史的展開
十七世紀後半から十八世紀にかけてイタリア北部のクレモナ村で製作されたヴァイオリン及び他の弦楽器の多くは、歴代の名演奏家達によって弾き継がれ、三百年以上の時を経ても聊かも色褪せることなく、現代人の耳と心を魅了していることは周知の事実である。
特にストラディヴァリが製作したヴァイオリンをストラディヴァリウスと言い、ガルネリが製作したヴァイオリンをガルネリ・デル・ジェスと呼んでいるが、二人が作ったヴァイオリンに優る名器は後にも先にもないとまで言われている。ストラディヴァリは生涯二千挺ほど製作したが、現存するのは約六百挺ほどで、実際演奏会で使用されているのはそのうちの百数十挺余りであることは分かっている。
では残りの四百数十挺はどうなっているのかと言えば、世界的に有名な博物館か記念館に展示されているか、或いは公共施設の金庫の中か大金持ちのコレクションとして所蔵されているかのいずれかである。
しかし何百年もの間、全く音を出さずに保管されていると、そのヴァイオリンから本来の素晴らしい音色を引き出すのに、何年もの時間が費やされたと多くの演奏家が述懐している。
このことを考えると、ストラディヴァリウスやガルネリ・デル・ジェスのような名器は、単に温度と湿度だけで管理されていれば問題ないとは言い切れない理由があると考えられる。
ヴァイオリンの特異な構造
「ヴァイオリンは人間に最も近い楽器である」と、ヴァイオリンに関する多くの書物に共通して書かれている。ヴァイオリンの胴体は共鳴体と呼ばれ、表板のf 孔と関連して、固有な共振周波数を発生する。1 0 0 % 手作りのため全く同じ共鳴体を作ることは非常に困難( 実質的に不可能) であるから、ヴァイオリンに限らず弦楽器の一つ一つに、異なる個性的な音色が生まれることになる。
ヴァイオリンの構造で最もユニークなのが、表板と裏板に挟まれた響柱( 一般的には魂柱) と呼ばれる太さ約6 ミリの松材の棒である。接着剤で固定されている訳ではないのに、表板と裏板の振動を増幅させる機能がある。この魂柱の微妙な位置により音色や響きが、全く異なることも分かっている。
ヴァイオリンの制作者と優れた演奏家の経験により、魂柱の在るべき位置が決まる。表板の裏に貼られたバスバーという細長い薄板や、アーチ型に削られた表板と裏板の形状等、さほど複雑でない構造でも、それらがヴァイオリンという楽器に形作られたときに、最良の共鳴音が醸し出せるよう工夫されているようである。
ヴァイオリンの楽器としての特徴
ヴァイオリンの修復技術者として世界的に高名な中澤宗幸氏の著書、「ストラディヴァリウスの真実と嘘 世界文化社」の5 6 頁および5 7 頁には「5 5 個前後の部品で組み立てられているヴァイオリンは、ほとんどの素材が有機物で出来た生き物なのです」と記載されている。
生き物のように感じるのは制作者だけでなく、初めて名器を手に取り弾いた多くの演奏家の異口同音の感嘆でもある。つまり名器と言われるヴァイオリンは名演奏家が弾くことにより、生き物として命を全う出来ると言っても過言ではないであろう。
しかし現在世界を見渡しても、何百挺の名器であるヴァイオリンは半ば死んだように、温度と湿度だけで管理されている、恰も暗い棺桶同然のケースに仕舞われているだけであるから、何十年何百年後に運良く名演奏家に渡されたとしても、直ぐにはその名器が誕生した時代の音色を呼び覚ますには、相当な時間が掛かったと述懐した演奏家が多くいることも事実である。
本発明は、被振動体がもつ性能の低下を抑制させることを目的とする。
問題解決の手段
上記目的を達成するために、開示の振動付与装置が提供される。この振動付与装置は、骨伝導スピーカと、被振動体を載置する載置部と、前記骨伝導スピーカが発する固有振動を前記載置部に伝達させる振動伝達部とを有している。
これにより被振動体がもつ性能の低下を抑制させることができる。
特許請求の範囲
【請求項1 】
骨伝導スピーカと、被振動体を載置する載置部と、前記骨伝導スピーカが発する固有振動を前記載置部に伝達させる振動伝達部と、前記被振動体に弦楽器が共鳴する固有振動を基準として適切な振動が付与されているか否かの判断結果に基づき、前記骨伝導スピーカが発する固有振動の周波数を変化させる制御部と、を有することを特徴とする振動付与装置。
【請求項2 】
前記載置部に載置された弦楽器を覆い、内部を気密に保つ気密部を有する請求項1 に記載の振動付与装置。
【請求項3 】
持ち運び可能な取っ手を有する請求項1 または2 に記載の振動付与装置。
【請求項4 】
前記被振動体が弦楽器または弦楽器の材料となる木材である請求項1 または3 のいずれかに記載の振動付与装置。